拝啓、若尾文子様(私の理想の日本女性)

若尾文子は稀な女優だ。
 何が稀か?それは彼女がどんな役柄もこなせるからだ。清純な女性、毅然とした夫人、男を騙す役(多分、男は皆、若尾さんには騙されたいだろう)、得意の現代劇から時代劇まで、どんな役も似合うのである。なぜか?それは彼女が日本女性に必要な美的要素の全てを持っているからだ。日本の文化・伝統をしっかり体現した教養、知識そして因習や矛盾までも背負い込んだ美しさをいつも感じさせるからに他ならない。彼女は着物が最高に似合うが、洋服を着たときも近代日本女性のセンスを感じさせるのである。
 若尾さんはその美貌もさることながら、何と言ってもあの声が素晴らしく魅力的である。何か最上質の絹の帯でくるんでくれるような、暖かく、しかも女性らしい、他の誰も、決して真似の出来ない声だ。一度でいいから、「OOさん」と、名前を呼んで貰いたいのは私だけであろうか?
 若尾さんは、女優のキャリアが長く、若くして大映のスター女優になった。しかし、彼女の人気は、映画ファンのいわゆる玄人ファンの人気だった。大衆的な人気ではなかったように思う。それは、映画スターだから何も問題はない。しかし、映画が斜陽になって彼女が所属する大映が倒産してしまった。彼女は、映画に未練があったのか、他の女優に比べてテレビに進出するのが遅かった。 そして三十代の半ば、昭和44年頃からか、テレビに出てきた。このときに出演したのは、「待ってますわ」「ちんとんしゃん」であった。確か、小料理屋の女将さん役であった。この役は、絶品であった。正確に言えば私はこのときからのファンである
 彼女は、映画スター時代は、凄まじいオーラがあった。 敢えて言えば、スターの灰汁、誤解を恐れず言えば、ある種のいやらしさを持っていた。これは映画スターであれば、むしろ必要なオーラである。映画は金を払った若尾ファンしか見ないからである。しかしテレビは、茶の間で老若男女誰でも見る 。ここであまり強烈なオーラを放ってはいけないのである。若尾さんはこのオーラを緩めるのに少し時間がかかったのかもしれない。あまりにも大映の看板女優であったからである。しかしこのオーラを緩和してテレビに出てきた若尾さんは、さっぱり垢抜けして、誰もがあこがれる茶の間のアイドルになった。私は彼女が一番美しかったのは、35歳頃から50歳頃にかけて
ではないかと思っている(勿論、今でも美しいですがね)。
 あの頃のテレビドラマの映像はないものだろうか。いずれにしても、いつまでもお元気で美しくいて貰いたい人だ。