荒崎のトコブシ

13日の土曜日、開店したばかりの佐島マリーナ近くの海鮮料理屋に、知人と行った。カマスとムツのフライ、刺身、生しらすが絶品だった。散り始めた通研と旧岩戸高校の桜を眺め、天気が良いので荒崎に行ってみた。久しぶりに磯を歩くと、人がかなり出ている。小学生や中学生が網を持って磯で遊んでいるので「何を採っているの?」と尋ねると、「ハゼやヒトデが掛かる」と言って実に生き生きしている。最近の子供はスマホばかり見ているので、磯で遊ぶ子供達を見て、嬉しくもホッとした。
 私も、磯で尻高や西貝を探してみた。子供の頃から磯遊びをしていたので自信がある。尻高や西貝が沢山あった。少し探しているとなんと大きなトコブシを見つけた。一寸持ち帰りたくなったが、ここでは、貝類の採集は禁止である。残念だが諦めた。知人が、「夢中でしたよ」と言っていたから、かなり真剣な顔をしていたのかもしれない。
 そういえば、子供達も磯物を採っていなかった。ここでは、子供達も貝採集禁止をしっかり守っているのであろう。
 磯遊びで思い出すが、もう20年以上前の5月のことだ(磯遊びは5月が最適)。例年通り、南下浦毘沙門で尻高を採っていると、知り合いの農家の主人に会った。
「せんせい、何してんだよ」(地元の知り合いは私のことをこう呼ぶ)
「見てのとおり、磯物を採ってんですよ」
「せんせい、そんなことすんとつかまんぜ。新聞に写真付きで出んぜ」
「何でですよ。昔からやってますよ」
「昔は良くても今だめだよ」
「サザエやアワビをシュノーケル付けて採ったら犯罪だけど、これ売り物になりませんよね。だめですか?」
「貝という貝はダメだだよ」
「あそこで釣りしてるじゃないですか!」
「釣りはいいだよ」
「・・・・」
「せんせい、せっかく採ったから、もってきなよ」
「いいんですか」
「俺、組合員だから俺が採ったことにして先生に遣れば構わねえよ」
「有り難う」
「近々相談に行ってもいいかね?」
「「どうぞ」
こんな具合だった。この日を最後に磯遊びを止めた。
 磯物を採るのは縄文以来の人間の本能的快感であると考えるが、規則は守らなければならない。トコブシを採り損ねたが、この日は楽しい一日であった。緊張して磯を歩いたせいか、今日も腰が心地よく痛い。