モーツアルト考

クラッシックは、これを語る程聴いてはいませんが、少し許されたい。
 40年ほど前だったと記憶していますが、カール・ベームが来日したとき、もし眼前にべートーベンが現れれば、最敬礼するだろう、と言いました。ではモーツアルトが現れたらどうするか、彼は卒倒してしまうと言いました。要するに、モーツアルトは神に近い存在なのですね。 
 しかし私はモーツアルトの素晴らしさに中々気づきませんでした。彼の音楽は右の耳に入って左の耳から抜けていきました。要するに通り一遍にしか聞こえなかったのですね。感情的に消化出来なかったのです。
 しかし40代になってようやくモーツアルトに目覚めました。きっかけはディヴェルティメントK287でした。この曲こそ私をモーツアルトのファンにしたのです(尤もこの超名曲を40歳を超えるまで知らなかったのですからクラシックファンとは言えません)。
 よくモーツアルトは「明るい悲しさ」と言われます。私なりにこれを解釈しますと、こうなります。
 失恋とか親しい人の死などの私的な不幸は正に暗い悲しさそのものです。では明るい悲しさとは何でしょうか。真っ赤な夕日が沈む時、人は誰も悲しくなります。太陽は明るく輝かしい存在そのものです。それが地平線に消えていくのは、たとえ明日また東から昇ってくるとしても、とても悲しいことですね。つまり人間には如何ともし難いどうすることも出来ない抗えない自然の摂理があるわけですよ。正にこのディベルティメントは真っ赤な太陽が沈んでいくイメージなのですね。 しかもこの曲を作ったのが21歳というのですから、もう天才というより人間ではないですよ。この曲をきっかけにモーツアルトを聴き始めました。するともう素晴らし曲ばかり。少し挙げることを許して下さい。
 まずバイオリンソナタK378 霊感を感じるような素晴らしい作品ですね。お勧めはアルテュール・グルミオーとクララ・ハスキルの古い録音です。
 弦楽五重奏曲K516 モーツアルトにしては珍しい短調なんです。何か諦観を表すような淡々とした渋い旋律が続きます。飛べない白鳥のようなもの悲しい名曲ですね。 バイオリン協奏曲第4番 これは私はクライスラーの演奏がベストではないかと思います
 まあボロが出るといけませんのでこの位にしておきましょう。